CREATIVE MINDS: A DIALOG WITH HANNA GOLDFISCH

CREATIVE MINDS:
A DIALOG WITH HANNA GOLDFISCH

見た目にも気持ちにも嘘偽りなく自身の哲学を大切にしている人が身に纏うことで、その人本来の姿を引き出し、さらに自分らしくいられる服づくりをテーマにしているTĔLOPLAN。

CREATIVE MINDSではそんなブランドの世界観を体現する人物に、それぞれの表現の根源にあるものや彼女たちを構成する要素について話を聞く。

今シーズンは取材の舞台を欧州に移し、写真家Kota Ishidaのフィルタを通して各国で生活する彼女たちのアイデンティティに迫る。

ベルリンを活動拠点とするインフルエンサー、Hanna Goldfisch。ニュートラルな佇まいのファッションフォト、クラフト感溢れるキュートなインテリアデザイン、DIY、ファニーな動画等々、それぞれ質感の異なる表現と個性的なセンスを活かしてSNSで情報発信している。
彼女はインターネットメディア中心時代の大局を見渡し、一歩外側から客観的に俯瞰する。自身の立ち位置をあえてカテゴライズせず、未経験の分野にも飛び込み、日々新たな表現を切り拓いている。
SNSでは華やかな投稿が脚光を浴び、娯楽の情報が溢れているが、人にとって本当に必要なもの、本来の幸せとは何なのか、Hannaは静かなまなざしで考察する。生きることに伴い押し寄せる痛みや苦悩から逃げず、真摯に自分自身に向き合っているからこそ、人々の心に寄り添うクリエイティヴィティを発揮することができるのだ。彼女に普段から大切にしている想いや人生観などについて伺った。

自身をカテゴライズせず、マルチな活動を通して創造性を探究する

ーHannaさんは現在モデルやクリエイター、インテリアデザイナーなど多方面で活躍されています。これまでのキャリアについて、またご自身の基軸をどのようにお考えかお聞かせください。

キャリアの出発点はモデルです。モデル活動の中で常に創造性を追求していて、ポートフォリオを作る際に自分でアートディレクションも行うようになった。動画制作はその延長線上です。
創造性を拡げるためにあらゆるものからイメージソースを得るようにしています。特定のスタイルに縛られたり、ひとつの表現に固執するのは避けたい。一番インスピレーションを受けるのは自分の身近にいる友人たちです。ボーイフレンドはよくドローイングをしているし、いちばんの親友は写真家の仕事をしています。
創造性の探求は自分探しの旅でもある。クリエイティブなことをすればするほど、自分をひとつのカテゴリに入れておきたくないという気持ちが強くなってきたんです。

SNSは自分をあらゆる側面から表現できる、とても機能的なプラットフォーム。SNSでの活動は人目に晒されることになるけど、プレッシャーはあまりなくて、人々にインスピレーションを与えることが自分の使命のように思ってる。一筋縄ではいかない活動の広がりを感じています。
現在は実験的な旅の途上なんです。自分自身に制限を設けず色々なことに挑戦するうち、実際にできることが広がっていきました。

インテリアデザインを始めたのも、多角的な活動のひとつとして自宅をセルフリノベーションしたのがきっかけです。インテリアブランドとコラボするよりも自分自身の表現としてやってみた方が面白いと思って、デザインから制作まで手がけました。制作したものをSNSにアップロードすると、人々はもっと見たいと求めてくる。でも私は消費されたいわけではない。素材やフォルムについて試行錯誤する時間が好きなので、プロセスにフォーカスしていきました。

ひとつのことを時間をかけて深く追求する人もいるけど、私はそれがあまり性に合ってなくて、次々に違うことをしてる。それが自分を正しい方向へ導いてくれる自分なりの歩み方なんだと思っています。

ードイツ、日本、韓国にルーツをお持ちだと伺いました。ヨーロッパとアジアではカルチャーの色が異なりますが、ご自身の仕事や生活において、それぞれのルーツが反映していると感じることはありますか?また、ルーツにまつわる慣習など、大切にしていることはありますか。

家庭環境だったり、自分の性格だったり、ルーツは様々なものに影響を与えていると感じます。
幼少期にドイツのバイエルン地方にある人口700人くらいの小さな田舎町で祖父母と暮らしていたため、私の文化的なバックグラウンドはほぼドイツで、韓国や日本のルーツは自分でも発見できていない部分が多いと感じています。
子どもの頃、自分の見た目が周囲の人と異なることから、私はどこに所属しているんだろうという疑問をずっと抱いていました。
母は家でいつも韓国料理を作ってくれていたけど、祖父母と生活するようになってからはジャガイモ料理がメインの生活になった。食事はルーツとコネクションを強く感じさせるもの。私はよく韓国料理を作るし、スリランカ出身のパートナーとフュージョンしてカレーを作ったりもします。
一番大切にしているのは、自分を固定観念の中に閉じ込めないこと。このグループにいたらこうあるべきとか、周囲に合わせてスタンスを無理に捻じ曲げたりとか、そういうことはなるべく避けるようにしています。

人生の本質と向き合い、本当に大切なことを見極める

ー日々のウェルネスやメンタルヘルスのために、どのような取り組みをしていますか?

私が20歳の頃に両親が亡くなってしまい、たくさんの悲しみの中で生きてきました。最初、これらは起こるべくして起こったことで、自分が強くなるための出来事だとポジティブに考えようとしてきましたが、2、3年前からその考え方にも疲れてしまって。今まで辛い人生から逃れることに集中してきた。いつかは成長したら克服して乗り越えられるんだと思っていた。
でも違った。苦しみや悲しみは常に自分と共にあって、一緒に生きていくしかないんだと最近気づいたんです。
セラピーに行くこともあるし、SNSでも綺麗な姿や家だけを見せるのではなく、ブレイクダウンやローになっている様子も公開するようにしています。本来の私のありのままの姿が、他の人たちにとってサポートになることもあるから。

自分のメンタルヘルスを保つための儀式として、朝の時間にアロマオイルを焚いて癒されたり、コーヒーやビタミンを摂ったり、書き物をしたり、ストレッチをするようにしています。以前は仕事中心の生活だったけど、最近は自分の健康に気を使うようにしています。

ーHannaさんは普段モノトーンの服しか着用しないそうですね。ファッションに対するポリシーや、身につけるものを選ぶ際に重視するポイントについて伺います。

若いときは自分のスタイルを探すために洋服を選んでいましたが、今はモノトーンとベージュ・グレーに落ち着きました。自分を一番表現できるし着心地もいいから。取捨選択を尽くした中に新たに何かを加えたり、ミックスマッチする方が、自分が持っている洋服ひとつひとつの価値が上がるし、もっとその服のことを好きになれる。
TĔLOPLANの服は自分のスタイルを活かせるし、デザインが良いだけじゃなく、タイムレスな印象ですね。「Aoi Trousers」というパンツがすごく好きでよく履いています。
インフルエンサーの仕事をしていると洋服をいただく機会が増えます。でも、すべての人があらゆる価格帯のものを買えるわけではない現実をよく理解しているので、むやみに高価な洋服をプッシュするような風潮には加担したくないんです。

ー洋服をはじめ、生活全体をミニマム志向に移行されたきっかけは何だったのでしょうか。

ある日突然ミニマムに転換したわけではなく、ゆっくりと3年くらいかけて生活をミニマムにシフトしていきました。その過程で自分に本当に必要なものは何なのかじっくり考え、今住んでいるフラットに引越しするタイミングで断捨離したんです。
子どもの頃祖父母と一緒に暮らしていたので、第二次世界大戦後の本当に物資がない時代を生きてきた世代の、ものを大切にする習慣の影響もあります。
例えば自宅に置いているミラーは17年間使ってきたものですが、飽きたから捨てるのではなく、さらに長く使い続けられるようにリメイクしたんです。キッチン用品の梱包材の段ボールを使い、紙を水に浸し泥状にして白いフレームを作りました。

ーインターネットメディア中心の時代、常に移り変わっていく今後の世界において、ご自身が描いている将来のヴィジョンをお聞かせください。

ソーシャルメディアは自分の広告を出せる場所だと思っていますが、全てを体験できる場所ではない。インフルエンサーを始めたばかりの頃は洋服を沢山提供してもらったりしたけど、それだけでは自分自身の在り方に疑念を持つことになる。
ソーシャルメディアを利用する群衆に頼るのではなく、自分の成長過程のショーケースだと考えて使っています。

今思い描いているゴールは、自分がハッピーかどうかということ。
以前は良い仕事の依頼が来てもどんな場所を訪れても心から楽しいと思えなくて、常に孤独感を感じていました。
楽しいことを求めて誰かのそばにいるのではなく、自分自身と向き合うことを楽しむ。それを一番の目標にしています。今はこの現状に感謝しています。

Hanna Goldfisch /
実験的なアーティストとして、さまざまなメディウムを使いながら常に新境地を模索し、自己を表現するマルチクリエーター。型にはまらず、伝統的なアートの在り方に挑戦することで、クリエイティビティが自由に流動し、進化していく作品づくりを目指す。

Kota Ishida /
1997年生まれ
小説家を志した大学在学中、撮った一枚の写真から文章を紡ぎ出す試みから、より写真へと傾倒。以後独学で写真を撮り始める。これまでにアメリカにて映画NINE DAYS(2021)などの撮影にスチールフォトグラファーとして参加。
2023年よりMA-RE incに所属し、より本格的にファッションフォトグラファーとして活動を開始。

Nami Kunisawa / Akio Kunisawa /
フリーランスで編集・執筆を行う。これまでに「Whitelies Magazine」(ベルリン)、「Replica Man Magazine」(ロンドン)、「Port Magazine」(ロンドン)、TOKION(東京)等で、アート、ファッション、音楽、映画、写真、建築等に関する記事に携わる。

Photography:Kota Ishida
Text : Nami Kunisawa
Interview : Akio Kunisawa