CREATIVE MINDS: A DIALOG WITH IZABELLA DOYLE

CREATIVE MINDS:
A DIALOG WITH IZABELLA DOYLE

見た目にも気持ちにも嘘偽りなく自身の哲学を大切にしている人が身に纏うことで、その人本来の姿を引き出し、さらに自分らしくいられる服づくりをテーマにしているTĔLOPLAN。

CREATIVE MINDSではそんなブランドの世界観を体現する人物に、それぞれの表現の根源にあるものや彼女たちを構成する要素について話を聞く。

今シーズンは取材の舞台を欧州に移し、写真家Kota Ishidaのフィルタを通して各国で生活する彼女たちのアイデンティティに迫る。

アイルランドの地で羊や鶏と共に自給自足の暮らしを送りながら、プラクティカルなデザインの美しい服を紡ぎ出す、「WRIGHT&DOYLE」のデザイナー・Izabella Doyle。彼女は自然の循環を尊重し、生活や服の制作過程でこぼれ落ちるものを無くして、環境に負荷をかけないものづくりを実践している。
目まぐるしいサイクルで消費されていく現代のファッションにおいて、服の素材の出自や作り手の顔に想像を馳せることは困難なことが多い。一方でIzabellaの服づくりは、そのプロセスとデザイン、彼女の生活様式が相関している。丁寧な手仕事の積み重ねによって生まれる服は、遙かなる旅路をめぐる物語のようだ。
彼女の生き方や服に対する理念、哲学について話を伺った。

ゼロウェイストへ向かう服作り、環境と一体化しゼロから築き上げる生活

ー「WRIGHT&DOYLE」の服は、環境やクラフトマンシップに敬意を払いながら、時間をかけて丁寧に作られている印象があります。あなたがたの服が、人々にどのような効果や反応をもたらすことを期待していますか?

私たちの服に惹かれる人は、人生に対する考え方が我々と似ているんだと思います。ヴィジョンを共有して楽しみながら着てもらいたいし、一着一着に袖を通すとき、我々の想いが伝わるような服作りをしていきたい。
私の場合、先に服をデザインしてから使う生地を探すのではなく、生地を作るところからデザインがスタートします。パターンも、手塩にかけてつくった生地も、どちらも大切。使わない部分を出すのは勿体ないから無駄のないデザインにする。今着ているこの服もカットを極力少なくして、ひとつのピースをつなぎ合わせて作ったものです。
最近は週末にウェールズへ行って、LONDON CLOTH COMPANYのDanielと一緒に生地を作っています。彼は廃棄された1870年代製のシャトル織機を自分で修復して、伝統的な手法で生地を織っている奇特な職人。かねてから彼と仕事をしたいと考えていて、今回のAWコレクションでやっと叶ったの。いずれうちで飼育している羊の毛をDanielの工房で織りたいと話しています。

ー拠点をロンドンからドーセットへ移されたのは、どのような心境の変化だったのでしょうか?

ロンドンではボートハウスに住んでいて、好きなように内装を変えたり楽しんでいたんだけど、子供が生まれたことで、より自然が身近な環境でスローな生活をしたいと思ったの。男の子2人を伸び伸び育てられるスペースが欲しかったし、庭師をしているMattが植物を育てる土地も必要だったし、服の生地を作るために羊を育ててみたくて。それでドーセットに引っ越すことにしたんです。
ドーセットはMattが小さい頃、毎年夏に家族でよく訪れていた場所。ここには元々物置小屋と牛舎しかなくて、倉庫だった建物を自分たちで改装して家にしたの。広い土地を活用して、羊や鶏を飼い、野菜を育てる生活です。羊の蹄は土を耕してくれるし、排泄物は肥料になる。今はMattと2人だけの生活なので、ゆっくり環境を整えていきたいですね。

ー現在どんな動物を飼育していますか?

猫と羊と鶏がいて、これから豚も迎え入れる予定です。
私たちは1年に1頭、年老いた羊を食べます。彼らに良い生活を送れたと思ってもらえるよう、育てている間は良質なものを食べさせて、大切にケアしているの。皮も余すところなく使うから、サスティナブルでもあり、スローライフ的でもあると思ってる。アイルランドの風習というよりは、地球で生活するという観点で、我々が果たすべき責任だと考えています。

ー自宅での仕事、子育てや動物のお世話、自分の時間など、時間配分をどのように行われていますか?

全て同時進行(笑)。カオスですよ。
朝起きたら子供の世話、学校に送る前には動物の世話をして。帰宅後、落ち着いたらコーヒーで気分を切り替える。これは毎日行うスローな儀式です。
子供達が学校から家に帰るまでの間に仕事をする。たまに羊が仕事の邪魔をすることもあります。仕事場の窓から庭がよく見渡せるので、羊たちの様子がすぐにわかるの。

ーあなたにとってミューズのような存在や、影響を受けたアーティストはいますか?またどのような時にインスピレーションを感じますか?

2023年のSSコレクションは、パフォーマンス・アーティストのCarali McCallにインスパイアされた部分があります。彼女の作品づくりの光景を写真に収めてルックブックに使ったり、カリフォルニアのBlunk Estate (ギャラリー) で行ったショーでは彼女に毎日サークルドローイングのパフォーマンスをしてもらいました。
ルックブックにおけるコンセプチュアルなイメージは、撮影するその日に生まれたもの。周囲の環境との相互作用が起きて惹きつけられる瞬間を捉えています。
インスピレーションの源はシーズンごとに異なりますが、様々なアーティストや風景、建築物から受けることが多いです。コレクションのインスピレーションを得るために、外を歩いたり展示を見たりしてアイディアを膨らませます。

人々の活動に根差し、意味・目的を持つ服にこそ美しさが宿る

ー「WRIGHT&DOYLE」の服は、ミニマルで美しいフォルムでありながら、昔ながらのプライマリーな営みであるガーデニングや農業などの環境に溶け込むようなイメージです。デザインにおける機能と美の両立をどのように考えていますか?

機能的なデザインは美しい服にとって必要不可欠なもの。衣服は何らかの機能性を兼ね揃えているべきだと確信しているし、またその機能は完全でなければならない。例えば防水性があるように見えるデザインのジャケットに、実は防水性がないなんて、あってはならないこと。
服飾の歴史を辿ると、トラディショナルなコートやジャケットには用途に合わせた実用的なポケットが配置されている。意味のあるデザインなんです。そうした伝統的でアクティヴィティに根差したデザインや、昔ながらのクラフトマンシップからインスピレーションを受けることもある。過去から受け継いだイメージを現代の環境に落とし込むことで、新たな文脈が生まれたり、より洗練されたものになっていくと考えています。

ー今後自身のブランドとデザインをどのように成長させていきたいですか?

自由な創造性を発揮するために、ブランドのコレクションは年2シーズンに限定しています。デザインや素材に膨大なエネルギーを注ぐ一方で、売り上げについては時間的猶予を持たせるようにしてる。例えば最初のシーズンに作ったコートは反響が大きかったんだけど、当時は卸先が少なくて、販売数はそこそこだった。その後何シーズンか経て顧客がついた頃に同じ型のコートを出したら、世界中数十店舗の卸先がつきました。
現在「WRIGHT&DOYLE」は、我々のデザインに対する思想や価値観を十分に理解してくれるバイヤーや顧客と良好なコミュニティを築けていて、我々の世界観を反映してくれる素敵なお店で取り扱われている。彼らが実際に我々の服に袖を通したときの感想が重要なインスピレーションになるの。

今後もこんな感じでブランドを成長させたいから、マーケットを拡げすぎて価値観が一致しないコミュニティで販売するのは避けたいんです。
当初よりもブランドの規模は大きくなっているけど、生地の裁断の様子や工場の状況、アートディレクションなど、全てを私自身の目で見て運営しています。自分の視野の外側でブランドを成長させるようなことはしたくない。規模が大きくなるほど生産量も増えて可能性が広がる一方で、基本部分が崩れてしまい、繊細なケアを維持できなくなる。だから今のレベルを維持していきたいんです。

Kota Ishida /
1997年生まれ
小説家を志した大学在学中、撮った一枚の写真から文章を紡ぎ出す試みから、より写真へと傾倒。以後独学で写真を撮り始める。これまでにアメリカにて映画NINE DAYS(2021)などの撮影にスチールフォトグラファーとして参加。
2023年よりMA-RE incに所属し、より本格的にファッションフォトグラファーとして活動を開始。

Nami Kunisawa / Akio Kunisawa /
フリーランスで編集・執筆を行う。これまでに「Whitelies Magazine」(ベルリン)、「Replica Man Magazine」(ロンドン)、「Port Magazine」(ロンドン)、TOKION(東京)等で、アート、ファッション、音楽、映画、写真、建築等に関する記事に携わる。

Photography:Kota Ishida
Text : Nami Kunisawa
Interview : Akio Kunisawa