CREATIVE MINDS: A DIALOG WITH LISA JAIN

CREATIVE MINDS:
A DIALOG WITH LISA JAIN

見た目にも気持ちにも嘘偽りなく自身の哲学を大切にしている人が身に纏うことで、その人本来の姿を引き出し、さらに自分らしくいられる服づくりをテーマにしているTĔLOPLAN。

CREATIVE MINDSではそんなブランドの世界観を体現する人物に、それぞれの表現の根源にあるものや彼女たちを構成する要素について話を聞く。

今シーズンは取材の舞台を欧州に移し、写真家Kota Ishidaのフィルタを通して各国で生活する彼女たちのアイデンティティに迫る。

社会哲学の知見を携え、ベルリンでのソムリエやワイン製造の仕事を通じて環境問題と農業プロセスに深い関心を寄せるLisa。
彼女はワインを単なる嗜好品やビジネスのひとつとして捉えているのではない。ワインはその製造過程において人間・社会・環境が密接に関わり合う、いわば結節点のようなもの。人々が環境問題を自分事としてイメージする糸口になり得ると彼女は考えているのだ。
伝統産業を現代的な視点で見つめ直し、環境に対する問題意識の啓発活動を志すLisaに話を伺った。

ワインボトルに詰められた人間社会と環境のリレーションを読み解く

ーワインの世界に携わることになった経緯と、オーガニックワインの魅力についてお聞かせください。

大学では哲学やカルチャーサイエンスの勉強をしていて、当初ワインはサイドプロジェクトでした。ワイン販売の仕事を始めたのが10年前。最初はクラシックワイン専門でしたが、地元の友達にオーガニックワインのワイナリーを案内してもらったことがきっかけで、オーガニックワインに専門を移していきました。その後ベルリンでワインの輸入会社で働くなかで環境に対する負荷について興味を持ち、製造にも関わるようになったんです。

オーガニックワインで一番魅力を感じるのは製造プロセス。ワイン製造に携わり始めたことで農業自体にも興味を持ち始めました。ワイン産業は土壌汚染とも関わりがあるので、ブドウの産地やワイン製造者などのバックグラウンドを知ることが重要なんです。
地球の環境変化に大きな影響を及ぼす農業は、今後システム全体を変えていかなくてはならない。農業の中でもワイン産業はイメージしやすい。オーガニックワインは「農業全体をより良くすることが可能である」ことを伝える上で重要なツールだと考えています。オーガニックワインが良い理由を具体的に説明できれば、付加価値を払ってでも選んでもらえるようになる。製造過程において政治的な問題も含まれているので、社会全体がワイン産業の全体像を理解することが大切だと思います。社会にとってのオーガニックのメリットがもっと広く理解されてほしい。
とはいえワインを飲むときは深く考えすぎず、楽しんで飲んでいます。食べ物は地産地消を心がけて、この街のオーガニック食品を選ぶようにしています。

ーソムリエの仕事は、ワインの生産背景や風味について、豊かな想像力を以て的確に表現し伝えることが求められるかと思います。伝える言葉や世界観のインスピレーションはありますか?

哲学や環境について考えたり、外に行って花や鳥を見たりすることがインスピレーションになります。見ていると心が静まるし、普段見過ごしているものに気付けたりするから。
一番影響を受けているのは、フランスの哲学者ブリュノ・ラトゥール。彼はワイナリーの出身で、社会文化について研究していた人です。彼の主張のひとつが「人間は純粋な主体ではなく、自然もまた人間にとっての客体ではない」というもので、環境問題や気候変動などの危機は、人間対自然/社会という視座に起因するところがあり、本来は人間・自然・社会のすべてが密接に関わりあい、因子として相互に影響を及ぼすと考える理論です。
ソムリエとしてワインを薦める際は、相手のいで立ちを観察したり、伝統を重んずる地方から訪れている方なのか、都会から来た若者なのかといった顧客属性で見極めたり、あるいは直接ワインの好みを尋ねることもあります。

ものごとのバックグラウンドに潜む多様性や可能性をトレースする視座を持ち、学んだことを社会へ還元したい

ーLisaさんはドイツ、日本、インドのルーツをお持ちと伺いました。幼少期からそれぞれ異なる文化に取り囲まれていたことが、仕事や生活における価値観に影響を及ぼしていると感じますか?

旅行先で海外の文化に触れる機会が多く、各地での人種差別の問題を注視するようになりました。私自身、見た目で判断されて「なぜあなたはドイツ語がこんなに上手いの?」と聞かれる経験もしているので、逆に他者に対する思いやりを持って配慮できるようになったかなと思います。
私は日本食が大好きなのですが、ドイツではあまり人気がないんですよね。

この数年で6つの地域に住んでみてわかったのは、自分の視野を広げる最大の要因は社会環境の変化だということ。新しい環境では、あらゆる種類の社会環境、味覚、文化が根本的に変わるんです。
例えば、現在私の住んでいる地域は、地域農業の発展や親しみやすさに重きを置いています。ライプツィヒはフェミニズムやインターセクショナリズムといった政治的平等に対する意識が高く、また音楽・クラブシーンの融合に大きな関心を寄せている。インドはポストコロニアリズムに対する見識を広げ、ギリシャは多くの文化的ルーツがうかがえる場所。ベルリンではワインに焦点を絞って新生活をスタートしました。これからブルゴーニュのブドウ園でワイン製造を楽しみ、その後ウィーンに向かう予定です。

ーワインや農業と同様、ファッション産業も地球環境に大きな影響を及ぼしています。Lisaさんが普段の服選びで重視していることを教えてください。

正直、毎日のスケジュールの中で服のことを考える時間はあまりないんですが、できるだけ長く着続けられる、心地良い服を選ぶことを大切にしています。夏物は生糸やリネンなどの天然繊維の素材、冬物だとカシミヤなどの柔らかいウール素材が好きですね。
あらゆる資源に限りがあるため、一度買ったら補修できなくなるまで使い倒したい。普段着ている服は古着市などで買ったセカンドハンドが多いです。オンラインで買い物をするときはサイズ感をよくチェックして、生地が何でできているか明記されているものを選んでいます。セカンドハンドは新品よりも自由に色々なアイテムを探せるし、少しずつ「普段着ではない特別な服」を増やしていける。もしピンとこないアイテムがあっても、再度リユースのサイクルに戻し入れることもできます。
また、サスティナブルであることと同じくらいデザインも重要な要素です。今回着用したTĔLOPLANの服は着心地がすごく良くて、プレイフルな感じ。遊び心があるけどあまり行き過ぎていない、飾らない感じが良かった。

ー今後は農業の勉強もされていくそうですね。ワイン製造や農業を通して、ご自身のヴィジョンや可能性をどのように拡げていきたいですか?

この数年は、生態学的相互作用や気候への適応について学んだ情報を人々に伝播していくことがライフワークのテーマとなっています。
大学では哲学とカルチュラル・スタディーズを通して、多様なストーリーの想像や批判的な視点を受け入れる必要性について学びました。その後ワイン製造に携わり葡萄畑で働く中で、社会の現状に対する疑問、人間以外の自然や動物との交流など、大学で学んだ内容を具体的にアウトプットできる好機だと感じたんです。ワイン用の葡萄を育てる土壌、醸造方法などに対して、人々がいかにこだわりを持つかということもわかりましたね。
ワインは楽しい分野であるだけでなく、ワイン業界を理解することで、農業のプロセス全般についてより多くの人に知ってもらう機会を作れる。最終的なヴィジョンとしては、適応的な農業生態環境を作り出し、生物多様性へのアクションを考えていきたいです。

Lisa Jain /
学生時代は哲学と文化研究のコースの傍ら、オーガニック・ワインの生産に携わる。卒業後は、ベルリンのワイン流通の会社とレストランで勤務したのち、ドイツ、ギリシャ、スペインのブドウ畑にて経験を積む。現在はフランスのブルゴーニュのブドウ畑で勤務。ナチュラルワインと環境保護主義を軸に、学術的な勉強と現場での実践を続け、今年、初めて自身のスパークリングワインをリリースした。

Kota Ishida /
1997年生まれ
小説家を志した大学在学中、撮った一枚の写真から文章を紡ぎ出す試みから、より写真へと傾倒。以後独学で写真を撮り始める。これまでにアメリカにて映画NINE DAYS(2021)などの撮影にスチールフォトグラファーとして参加。
2023年よりMA-RE incに所属し、より本格的にファッションフォトグラファーとして活動を開始。

Nami Kunisawa / Akio Kunisawa /
フリーランスで編集・執筆を行う。これまでに「Whitelies Magazine」(ベルリン)、「Replica Man Magazine」(ロンドン)、「Port Magazine」(ロンドン)、TOKION(東京)等で、アート、ファッション、音楽、映画、写真、建築等に関する記事に携わる。

Photography:Kota Ishida
Text : Nami Kunisawa
Interview : Akio Kunisawa