CREATIVE MINDS: A DIALOGUE WITH LIN
2021.12.07CREATIVE MINDS:
A DIALOGUE WITH LIN
あなたが服を纏うとき、何を思考しどんな姿になりたいと願うのだろう。
それはまだ見ぬ新しい自分を導いてくれたり、
傷ついた心とともに歩むための鎧にもなる。
見た目にも気持ちにも嘘偽りなく自身の哲学を大切にしている人が身に纏うことで、その人の本来の姿を引き出し、さらに自分らしくいられる服づくりをテーマとしているTĔLOPLAN。このインタビューシリーズではそんなブランドの世界観を体現する人物に、THE PAPERでクリエイティブディレクターを務めたharu.が、それぞれの表現の根源にあるものや彼女たちを構成する要素について話を聞いた。
デザイナーLin Liが手掛けるTĔLOPLANの服は、機能的且つ美しいシルエットに、メンズウェアからインスパイアされた細やかなディテールが特徴的だ。古民家や美術館など、様式も年代もさまざまな建造物のなかで撮影されるブランドのビジュアルイメージから浮かび上がるのは、どんな場所にいても自分の足で凛と佇む人物像だ。「まずその人の人生や哲学があり、そこに寄りそうのが服である」。一貫したコンセプトと時代の変化を柔軟に取り込んでいくTĔLOPLANの世界観には、幼少期から中国と日本を行き来し、ロンドンでファッションを学んだLinのバックグラウンドが色濃く反映されているのかもしれない。
複数の土地の記憶
haru.:リンさんは普段あまりインタビューを受けないとおっしゃっていたので、今日はお話聞けてとても嬉しいです。リンさんはルーツが中国にあると伺ったのですが。
Lin Li(以下、Lin):両親が北京出身で、私自身は日本で生まれました。子どもの頃から日本と北京を行き来していましたが、家の中では両親と主に中国語で話していました。中国の行事に合わせてお祝い事をしていたので、お正月におせちを食べたり、普段からだし巻き卵が出てくる文化はうちにはなかったですね。
haru.:子どもの頃から二つの文化がすごく身近にある環境だったんですね。
Lin:小学校の2〜3年生は北京、4年生から中学卒業まで日本、高校生でまた北京に渡りました。名前が明らかに中国人の名前なので、知らない子に名前のことでからかわれるのが嫌で、日本の小学校に通っているときは名札を外してはよく怒られていました。
haru.:私がドイツで過ごしていた時期と、リンさんが北京にいた時期がまったく一緒です(笑)。私もちょうど中学校の卒業式を目前にしたタイミングで3.11が起きて。それからすぐまたドイツに移住して高校に通いました。直接被災をしていなかったとしても、本当にいろんな人の人生を変えた出来事でしたね。
Lin:すごい!すべての時期が被ってますね(笑)。
haru.:複数の土地を行ったり来たりしていると、故郷について聞かれて戸惑ったりしませんか?私は日本もドイツも好きだけど、特定の場所に故郷という感情が湧かなくて。どちらもホームであり、でもやっぱりどちらも違うような。いる時期によって環境から受けるインパクトも違ったりします。
Lin:わかります。私は生まれてから小学校1年生までは金沢に住んでいたので、思い出深くはあるけど親の出身地でもないし親戚がいるわけでもないから、「帰る」って感じではないんです。北京も金沢もロンドンも、いた時間を合計するとほぼトントンなんですよ。だいたい5、6年ずつくらい。全部ホームだと思うときもあれば、すごく中途半端な気持ちになることもありますね。
ファッションという道を選んで
Lin:ファッションはずっとやりたいと思っていました。高校は北京で通ったんですが、母親に日本の大学に入って欲しいと言われて。私はファッションを学びたいから海外に行きたいと言ってずっと意見が食い違っていたんです。でも東日本大震災が起きて、絶対に安全な場所があるわけじゃないことを母も悟ったんだと思います。それでロンドン芸術大学に留学することを許してもらいました。
haru. :イギリスでファッションを勉強しているときから、自分のブランドを立ち上げたいという気持ちはありましたか?
Lin:はい、いつかは自分のブランドを持ちたいと思いながら、いろんなブランドで経験を積んでいました。今こうしてやらせてもらえているのも、とても恵まれた環境にいるなと思います。
haru.:さっきの故郷の話とも繋がりますが、拠点が一つではないことがリンさんのクリエーションに影響を与えているとは思いますか?
Lin:直接的に関係しているかはわからないんですが、リサーチ資料を英語や中国語でも読めるのは大きいかもしれません。その分入ってくる情報も多くなって視野も広がるので。あとはイギリスに留学しているとき、街並みを意識して服づくりを考えていました。それは大都市でも古い建物が残されているロンドンだからこそできたことだったと思います。今でもルックは特徴的な建造物のある場所で撮影したりと、TĔLOPLANのブランドコンセプトにも影響しています。
自分のまま、心地よくいるための服
haru.:「内なる自分を引き出す1着として纏う戦闘着」というのがTĔLOPLANのコンセプトであると思うんですが、これにはどういう背景があるのでしょうか。
Lin:個人的には服が主体になる服づくりはしたくなくて。着てくれる人が心地よくいられる服だったり、街の中で自分が着ている姿を想像できるような服を作りたいと思っています。子どもの頃から私の周りには働いている女性が多くて、いつも外に出てアクティブに働く母の背中を見て育ちました。まだまだ日本では女性が働きづらい環境も多いなかで、自分の身を置きやすくなるというか、堂々と自信を持てるような服を作りたいという思いがブランドのコンセプトにも反映されています。
haru.:私も取材や撮影現場に行ったりほぼ裏方の仕事が多いんですが、仕事をする時間が日常のほとんどを占めているからこそ、場の状況と自分の感性とのバランスがとれた服装をしたいと思うんです。シンプルだけどディテールやシルエットが美しいTĔLOPLANの服は日常生活を送る上で、すごく気分を高めてくれるなと思います。Linさんご自身はどんなものからインスピレーションを得ることが多いんですか?
Lin:デザインをするときはいろいろ切り貼りしたり、コラージュをするのが好きです。ドイツ人のアーティストHannah Höchや岡上淑子の作品からも影響を受けています。あとはメンズウェアですね。古い服とかだとメンズのほうが仕立てやテーラリングもしっかりしています。例えば、パンツのウエストの内側がマーベルトといった硬めの芯を使用した仕様になっているがために、トップスをインした時でもスッキリ綺麗に見えたり、ジャケットやコート類に必ず内ポケットがついていて便利だったり。そういうディテールってメンズに限らずあったらいいのに、と思っていろいろ取り入れるようにしています。
誇りに思える服づくりへ
haru.:TĔLOPLANのウェブページでは服の素材に関する情報も掲載されていますよね。ファッション業界でも環境問題や人権問題に取り組む一環として生産背景の透明性を高めていこうという流れがあると思いますが、TĔLOPLANがブランドとして取り組んでいることがあれば教えてください。
Lin:生地や染料はなるべく環境負荷がかからないものを選ぶようにしています。それでも生地屋さんに生地の経路や細かい情報を聞いてもわからないということもあったりして、生産の背景をクリアにしていくのは業界全体が取り組むべき課題だと思っています。
haru.:いまやそういう取り組みをしているブランドも増えて来たと思いますが、表面上だけエコや多様性を謳っている企業も多いという印象を受けます。
Lin:この前もお取引先の工場さんと話していて考えさせられたんですが、「この生地は環境に優しいですよ」というのを示すためのタグを必ずつけてほしいという企業もあるらしいんです。それがあることで売り上げはあがるかもしれないけど、タグのためにだって余分な紙を使うことになるので、それって本末転倒じゃない?と思うこともあります。TĔLOPLANでは新しいものをたくさん生み出すというよりかは、定番で長く愛されるアイテムを作っていきたいです。
haru.:TĔLOPLANの服を着てくれている方、もしくはこれから着てみたいと思っている方には、ブランドを通してどんなことを伝えたいですか?
Lin:着用する方には、服を着た自分を力強く感じて欲しいです。かっこよく見えることはもちろん大切なんですが、生産背景やストーリーありきで選んでもらえたらと思っています。服をお届けできるまでにはたくさんの人が自分の仕事に喜びやプライドをもって関わっていて、「そんな服を私は自分で選んでいるんだ」と自信を持って着てもらえたら嬉しいです。
haru. / 1995年生まれ。幼少期からドイツと日本を行き来して過ごす。
東京藝術大学在学中に、同世代のアーティスト達とインディペンデント雑誌 HIGH(er)magazineを編集長として創刊。
2019年6月に株式会社 HUGを設立、代表取締役としてコンテンツプロデュースの事業を展関。
Lin Li / 中国出身の両親の元、日本で生まれ育つ。
日本と中国を行き来する幼少期を過ごしたのち、ファッションを学ぶため渡英。
ロンドン芸術大学 ; ロンドンカレッジオブファッションを卒業。
在学中 ROKSANDAやSTUDIO NICHOLSON での経験を経て、卒業後フリーランスデザイナーとしてSTUDIO NICHOLSONのパターンメイキングなど様々なブランドに携わる。
そこで培ったシルエットや生地に対する美眼を用いつつ、現在は自身のブランド TĔLOPLANを展開中。
Photography: Anna Miyoshi
Text: haru.