CREATIVE MINDS A DIALOGUE WITH RABEA
2022.02.21CREATIVE MINDS:
A DIALOGUE WITH RABEA
あなたが服を纏うとき、何を思考しどんな姿になりたいと願うのだろう。
それはまだ見ぬ新しい自分を導いてくれたり、
傷ついた心とともに歩むための鎧にもなる。
見た目にも気持ちにも嘘偽りなく自身の哲学を大切にしている人が身に纏うことで、その人の本来の姿を引き出し、さらに自分らしくいられる服づくりをテーマとしているTĔLOPLAN。このインタビューシリーズではそんなブランドの世界観を体現する人物に、THE PAPERでクリエイティブディレクターを務めたharu.が、それぞれの表現の根源にあるものや彼女たちを構成する要素について話を聞いた。
「いまやものごとが複雑になりすぎている。本来ものづくりが生活にもたらしてくれる豊かさを考えなおすべき。」そう語るのはアーティストであり工芸家のラベア・ゲーブラー。ドイツの大学でプロダクトデザインを専攻するも消費主義的な思想による制作プロセスが肌にあわないと感じ、自らの手で生み出すものづくりを始める。現在は築100年近い日本の古民家を作業場兼住まいとして改装し、パートナーや仲間たちと暮らす。時間をかけて物や素材と向き合う彼女の姿勢こそが、本当の意味での持続可能性や物を所有する豊かさを教えてくれるのではないだろうか。
制作者への道のり
haru.:今回の企画に出演してくれる方々はみんなバックグラウンドがさまざまなので、子ども時代のことから聞いているんです。ラベアさんはドイツ生まれなんですよね。
ラベア・ゲーブラー(以下、ラベア):ドイツで生まれ育ちました。日本は4回目の滞在なんですが、住んだのは今回が初めて。まだ9ヶ月前に来たばかりです。
haru.:4回も!今回日本にきたきっかけはなんですか?
ラベア:私の彼が奨学金をもらって日本に来たので、一緒について来ました。彼は陶芸を学んでいて、来年から私も東京藝術大学で漆や木工芸を勉強したいと思っています。
haru.:子どもの頃の話に戻りますが、アートやものづくりは昔から好きだったんですか?
ラベア:昔から絵を描くのが大好きだったし、得意でした。大学では美術を学びたいと思っていたので高校時代から美術史を専攻していたんですが、結局ファインアートはやめました。いくらポートレートを描くのが上手でも、表現したいことがなかったら意味がないかなって。世界に対して不満がなさすぎたんだと思います。アーティストになるには私は幸せすぎたのかもしれないです(笑)。
haru.:昔の自分も含めて、アーティストを目指す若者がよく直面する問題な気がします(笑)。
手から「削りあげる」よろこび
ラベア:結局大学では美術よりも実践的なプロダクトデザインを専攻したんですが、それもなんだかしっくりこなかったんです。大学でのデザインの授業はすごく資本主義的で、どんなものを作ったらよく売れるかということばっかりだった。私はもっと物の持続可能性について考えたいと思っています。素材や買い手との繋がりを大切にしたいし、壊れたらまた直せるような物をつくるべき。だからこそ、工芸の世界に興味をもったんだと思います。
haru.:たしかに、自分の手でつくれる物だったら構造がよく理解できますよね。
ラベア:もっといろんなことを手仕事に戻さないといけないと感じています。現代ってすべてが複雑になりすぎていますよね。政治も経済もプロダクトも。たとえば私は普通にPCを使っているけど、これがどうやって動いているかなんてわからない(笑)。多くの人は自分が使っている物がどのように、誰によって作られているかなんて考えないでしょう。でもここにあるコップの背景について知ったら、きっともっと大切にしたいと思えるし、壊れたら作り手に直してもらえる。
haru.:ラベアさんがなぜデザインから手工芸の世界に惹かれていったのか、すごく納得しました。「木」という素材を選んだのはどうしてだったんですか?
ラベア:子どもの頃にとあるイベントのワークショップで初めて木のスプーンを作ったんですが、今思えばその経験が私にとってはとても重要だったんです。自分が作ったスプーンを見て、たった一本のナイフと木の塊から機能的なものを生み出せるなんて本当にすごいと思いました。「ワオ!」って(笑)。それからというもの、私はずっと木のスプーンに夢中です。
素材との向き合い方
haru.:デザイン学科だと大学ではあまり自分たちで手を動かすことはないのかなと思うんですか、どうでしたか?
ラベア:ドイツの大学は工房もあったんですが、あくまでプロトタイプを作るだけで、実際に使える物を制作するわけではありませんでした。その後イスラエルに一年留学して驚いたのが、みんなが自分たちの手で一からものを作ることだったんです。卒業制作も「分かち合うこと」をテーマに、木とセラミックで机を作りました。さまざまな食文化やカルチャーの背景をもった他人同士が食事を分け合ったら、コミュニケーションや関係性はどう変化していくのか、ということをプロダクトを通して実験的に考えてみたかった。木でできた円形の机の上には陶器のお皿代わりの円盤が乗っていて、そこからみんなで食べる仕組みです。
haru.:すごい、そういうコンセプトのレストランがあったら面白そうですね。使うのがちょっと難しいご時世にはなってしまいましたが...。陶器と木の組み合わせも新鮮ですが、最近では漆など日本ならではの素材や技法を試していると聞きました。
ラベア:日本の伝統的な工芸は歴史がものすごく長いし、世界のどこを探してもこれほど洗練された技術は見当たらないと思っています。人生をかけて学び続けるという職人たちの姿勢が、そうさせてきたのかなと。数年間修行をしたら一人前の家具職人として活動できるヨーロッパとはかなり違う考え方です。あと、それぞれの工程における職人たちが自分の専門の技術を極めていることにも驚きました。それだけ真剣に素材と向き合っているということでもありますよね。木材を使うときも、曲がりやすかったり壊れやすい箇所はどこなのかをちゃんと見てから、その木の性質にあったものを作るんです。
制作過程にこそ発見がある
haru.:日本でのものづくりの経験は今後の制作に影響してくると思いますか?
ラベア:もちろん!今はより集中力と忍耐力をもって制作と向き合っています。特に漆を扱う場合、一つひとつの工程に意識的にならざるを得ないんです。一度塗ったら3日は乾かして、また塗るというのを30回は繰り返す。私にとっては修行のようです(笑)。
haru.:建造物も、ヨーロッパと日本では作るプロセスが全然違いますよね。先日ラベアさんのインスタグラムで日本の大工仕事に関するポストを見たんですが、職人さんたちが梁に登って作業をするのが新鮮だと書いていましたよね。
ラベア:先週くらいに、築100年の古民家をリノベーションしている現場を見学する機会があって。なにもかもがドイツの建築とは違うと思いました。家の躯体すべてが木でできていて、それがねじなどで留められるわけでもなく、木を噛み合わせることで構築されること(木造軸組構法)。あとは職人たちが梁の上を歩き回っていることにも衝撃を受けました。ドイツだったら完全に違法です(笑)。
haru.:職人さんたちってすごく軽装備ですよね。足袋みたいな作業靴を履いているけど、あれはドイツでは見たことないですね。そういえばラベアさんも作業中はとてもラフな服装をしているなと思いました。木屑が飛んだりすると思うんですが、つなぎとかは着ないんですか?
ラベア:大工さんたちのスタイルはいいですよね。あのダボっとしたワイドなパンツとか、扇風機がついたベストとか。私は作業着らしい服は好きじゃなくて、制作中でも好きな服を着るようにしてます。今日みたいなちょっとスーツっぽいスタイルも大好き。女性ものの服ってポケットが全然なくて不便だと思っていたんですが、TĔLOPLANの服はちゃんとポケットがついているアイテムも多いし、パンツの細かいディテールが素敵です。
今ここにいることを、感じる
haru.:日本に来ていろんなことが新鮮に映ると思うんですが、ドイツが恋しくなったりもしますか?
ラベア:ドイツにいたときはドイツ人の失礼な言い方とか冷たい態度に腹を立てることもありましたが、たまにストレートな表現が恋しくなることがあります。日本だと「駅に行きたいんですけど、、」って切り出すのが普通ですが、本当はシンプルに「駅はどこ?」って聞きたいです(笑)。
haru.:日本語ってすごく遠回りですよね。ここ(ラベアのシェハウス)に来るまで少し散歩をしていたんですが、都心のほうと比べると建造物とかお店とかも下町っぽくて私にとっても新鮮でした。
ラベア:小さな村っぽい感じがあって気に入っています。お年寄りが多くて、道端ではいつも何かしら面白そうなことが起きてる。梅を干して自分で梅酒をつくってる人がいたり。もし来年芸大に入れたら、キャンパスのある取手(茨城)に引っ越してもいいかなと思ってます。
haru.:私も学生時代は取手キャンパスに通っていました。本当に何もなくて、夜は信じられないくらい真っ暗なんです。ラベアさんは将来どこに住んでいると思いますか?
ラベア:パートナーがドイツには行きたくないと言ってるから、ドイツはなさそうです。彼の故郷のイスラエルも政治的に複雑で、土地もすごく高くて難しそう…。ポルトガルとかいいかもしれないですよね。家も安く買えて、気候もいいし。未来のことはまだ何もわからないけど、それでいいと思っています。
haru. / 1995年生まれ。幼少期からドイツと日本を行き来して過ごす。
東京藝術大学在学中に、同世代のアーティスト達とインディペンデント雑誌 HIGH(er)magazineを編集長として創刊。
2019年6月に株式会社 HUGを設立、代表取締役としてコンテンツプロデュースの事業を展関。
Rabea Gebler / ドイツ出身。
ドイツとイスラエルの大学でプロダクトデザインを学ぶ。
一本の木のスプーンを作ったことがきっかけで、自ら手を動かす持続可能な物作りに目覚める。
2020年冬に東京の下町に移住し、古民家を改装しながら陶芸家のパートナーとともに素材や木工業を探求中。
https://www.sentomono.com
Photography: Anna Miyoshi
Text: haru.