CREATIVE MINDS: A DIALOGUE WITH SHARAR

CREATIVE MINDS:
A DIALOGUE WITH SHARAR

あなたが服を纏うとき、何を思考しどんな姿になりたいと願うのだろう。

それはまだ見ぬ新しい自分を導いてくれたり、
傷ついた心とともに歩むための鎧にもなる。

見た目にも気持ちにも嘘偽りなく自身の哲学を大切にしている人が身に纏うことで、その人の本来の姿を引き出し、さらに自分らしくいられる服づくりをテーマとしているTĔLOPLAN。このインタビューシリーズではそんなブランドの世界観を体現する人物に、THE PAPERでクリエイティブディレクターを務めたharu.が、それぞれの表現の根源にあるものや彼女たちを構成する要素について話を聞いた。

ケアが行き届いた美しい金髪、こちらの考えなどお見通しかのように見つめてくるブルーの瞳。これらはモデルのシャラ・ラジマが彼女を彼女たらしめるために取り入れた一要素に過ぎない。あえてルーツがわからないような見た目をつくりあげ日本のメディアでの露出を高める狙いの一つに、日本における「理想の女性像」の認識をズラすことがあるそうだ。すべてのアクションは「あなたと繋がりたい」というShararの思いに根ざしているというのだから、今こそ彼女が紡ぎ出す言葉に耳を傾けねばと思う。

共通項を見出すこと

haru.:こうしてお話を聞くのは前回インタビューをさせてもらった2018年ぶりですね。今日はシャラさんのルーツから話を聞いていきたいと思います。よろしくお願いします。

Sharar Lazima(以下シャラ):私は日本に生まれてすぐバングラデシュに戻り、親の仕事の関係で9歳頃に東京に移住しました。日本に来てからはやっぱり自分の見た目が周りと違いすぎて、そのことで悩むよりかはどうやって適応していくかをずっと考えていました。日本人はみんなモンペを履いていて、おかっぱヘアなんだよって祖母から聞いていたので、そのイメージとはもちろん全然違いましたね(笑)

haru.:かなり前の話ですねそれは(笑)。今でもバングラデシュと繋がりはありますか?

シャラ:親が働いていたので、祖父母との記憶がたくさんあります。数年前に祖母が亡くなるまでは毎年バングラデッシュに行っていました。祖母の手料理は今でも思い出します。様々な種類のカレーに始まり、祖母は素材にとてもこだわっていてスパイスも一から作っていたんです。特に彼女の手作りプリンは今でも本当に恋しいです。

haru.:そうなんですね。シャラさんの他のインタビュー記事を読んでいて私にとって新鮮だったのは、「みんなと繋がっている部分を際立たせていきたい」、 「水のように社会に馴染んでいきたい」とお話しされていたことです。今の時代「個性」を全面的に出していきましょうっていう風潮が強いなと思うんですが、いつからそういう考えになったんでしょうか?

シャラ:私は自分が周りと違うことに反抗的な気持ちになったり悲しくなったりするというよりは、いかに適応するかを考えるんです。移民の人たちは同じ人種のコミュニティーで固まることが多いんですが、私の家族はあまりそれが好きではなくて。自分の国を出ると、自然と自分の文化をいかに守れるかっていうことにフォーカスするけど、私は外側に馴染んでいく方が合っていたんだと思います。物事は相反することの積み重ねだと思うんですが、私が自分の見た目をどんどん特定の人種から遠ざけてつくりこんでいったのも、その分周りの人と共有しているカルチャーやみんなと共通して持っている感覚を強調したいという思いがあるからなんだと思います。

(影響を受けた漫画として持参してくれたのは五十嵐大介著『魔女』(IKKI COMICS)。)

「わかりやすさ」が生む分断

haru.:シャラさんはアニメや漫画にも詳しいですよね。今日もお気に入りの作品を持ってきてもらいました(写真上)。

シャラ:すごく影響を受けていると思います。日本のアニメとか漫画って世界でも人気のものがたくさんあるけど、メジャーなドラマや映画だとなかなかないですよね。それって日本がハリウッドとか世界基準に届く話が作れないんじゃなくて、匿名性の上でしか本音が言えないことが原因なんだろうなと思ったんです。アニメだとあくまでフィクションとして本音と真理を出せるけど、人の顔が見えるとそれができなくなるなって。

haru.:たしかに。そういう作品があったとしても、マス向けにはならないですよね。社会や政治に真っ向から物申す、みたいな作品は資金集めとかのことを考えても作りづらい環境だと思います。

シャラ:最近ある本を見ていたら、1970年代のパルコの広告が出てきて衝撃を受けたんです。石岡瑛子さんがアートディレクションをやってる、赤い衣装を着た黒人の女性がピンで全面に写っている写真(パルコ 1973年 「女は明日に燃えるのです」)なんだけど。日本でこれができて、しかも国民もそれを受け入れていたのってすごいなって思いました。今は「いかに参考になるか」みたいなことばっかりじゃないですか。特にビューティーの仕事は、ここで黒人のモデルさんを起用しても日本人には参考にならないよねって話になると思うんです。でもこの広告を見て、突出したクリエイティブってそういう話じゃないんだなって。

haru.:SNSでみんなが言いたいことを言えるようになった今、クリエイターたちも萎縮する傾向にあるんだろうなと思います。いかに炎上せずに「みんな」に受け入れてもらえるかっていう。だからこそぼんやりしていて似たようなクリエイティブが増えていきますよね。

シャラ:メジャー=わかりやすいもの、そうじゃないものはわかりにくくて極力ふれたくない、みたいな分断があると思うんです。石岡瑛子さんの作品を見ていると非日常的でわかりづらくても、憧れるものってあったよなと。私自身もそこを目指しているけど、やっぱり現代の利便性重視の最適化された社会だと、私は参考にならないと言われてしまうんです。ファッションや美において「参考になる・ならない」だけが基準になるのはおかしいですよね。マーケティング重視で、窮屈な気がします。むしろ昔の方が寛容という言葉が取り糺されないほど、当たり前に寛容で、 60、70年代の日本の本や映画、ファッションを見ていると本当の意味で多様だなと思います。

与えられた役割への抵抗

haru.:「多様性」という言葉が、今っぽさを演出する便利なラベルのように使われることも多いと感じます。10代の頃よりも自分のアイデンティティや女性であることを意識させられることって多くなったと感じるんですが、シャラさんいかがですか?

シャラ:ありますね。無視できなくなってきているというか。以前役所で手続きをしたときも、私が一人で行ったときとパートナーが側にいるときの対応が明らかに違ったりしました。

haru.:私も「この人は私が女性だからこんなこと言うのかな?」とかネガティブな意味で受け取ることが増えました。シャラさんは昨年結婚されましたが、周囲の人からの見られ方が変わったなと思うことはありましたか?

シャラ:「結婚したら妻はこうあるべきだよね」って社会が求める姿に私が即していなかったときに、じゃあなんで結婚なんてしたんだっていう空気を感じることはありますね。もちろん私のことを前から知っている人たちはそうではないんですけど。結婚した瞬間に誰かの所有物になることを、みんな無意識のうちに当たり前に思っているんだと感じました。

haru.:結婚にまつわる考え方も制度もなかなか前に進まないですね。

シャラ:今すぐではなくとも、何か書き記しておきたいですね。

装うことの意味、繋がることば

haru.:以前はもともと服にあまり興味がなかったとお話ししていたこともありましたが、それはモデルを始めてから変わりましたか?

シャラ:興味がないというよりは、私もおしゃれになる権利あるのかな?って思っていたんです(笑)。思春期の頃はピンクの服は似合わないから絶対に着ちゃだめだ、とか決めつけていました。モデルをしていろんな服を着てみると、全然似合うし、似合うってだけじゃなくていいんだと思えたんです。それからは自分の好きな服を着るようになったし、自分の見せたいイメージを作り込んでいく上で服装ってすごい大事な要素だと気がつきました。

haru.:シャラさんは髪を金髪にしたり、カラーコンタクトで目をブルーにしたり自由に外見を変化させていますが、ファッションはそのイメージを補強したり構築していくのに欠かせないですよね。

シャラ:地域や時代、人種を交差するようなイメージで自分像をつくっています。60年代の色味が好きだから服は古着でそういうものを取り入れつつ、メイクはシルバー系のものを使ってSFの近未来的な感じを出したりとか。日本では色白で親しみやすくて可愛らしい女の子が理想とされるけど、その型にハマらないといけないっていう固定概念を少しでも崩せたらいいなと思います。そういう意味で私みたいなビジュアルのモデルが日本のメディアに露出するのはとても意義のあることだと感じます。「非日常」を目にし続けるってすごく大事だと思うので。

haru.:そうですね、現状に違和感を感じていてもオルタナティブを知らないからこそロールモデルが見つけられない人もたくさんいると思います。これからシャラさんが挑戦したいことはありますか?

シャラ:これまではモデルという仕事を通して二次元的なビジュアルでの表現を強めていくことが多かったんですが、今は自分のルーツである日本との繋がりを、ことばを介して見せていきたいです。非日常で見慣れないビジュアルに対して、言語の部分ではみんなと繋がっている状態をつくりたいので、これまで以上に執筆にも力を入れたいと思っています。相反するものは存在するし、それはあなたの中にもあって、人は一辺倒じゃないということをこれからも体現していきたいです。

haru. / 1995年生まれ。幼少期からドイツと日本を行き来して過ごす。
東京藝術大学在学中に、同世代のアーティスト達とインディペンデント雑誌 HIGH(er)magazineを編集長として創刊。
2019年6月に株式会社 HUGを設立、代表取締役としてコンテンツプロデュースの事業を展関。

Sharar Lazima / バングラデシュをルーツに持ち、東京で育つ。
国籍や人種の区別にとらわれない存在感で、モデルとして、雑誌や広告、ランウェイなどに登場。
2020年にはLOEWEのキャンペーンモデルに抜擢された。
最近では文筆業も盛んで、講談社の現代ビジネスとGINZA magazineのウェブで連載を持っており、人種のボーダーレスをイメージした容姿という独自のコンセプトを活かし、様々な場面での表現の幅を広げている。

Photography: Anna Miyoshi
Text: haru.