CREATIVE MINDS - EUROPEAN EDITION : A DIALOGUE WITH MAY KERSHAW

CREATIVE MINDS:
A DIALOGUE WITH MAY KERSHAW

見た目にも気持ちにも嘘偽りなく自身の哲学を大切にしている人が身に纏うことで、その人本来の姿を引き出し、さらに自分らしくいられる服づくりをテーマにしているTĔLOPLAN。

CREATIVE MINDSではそんなブランドの世界観を体現する人物に、それぞれの表現の根源にあるものや彼女たちを構成する要素について話を聞く。

今シーズンは取材の舞台を欧州に移し、写真家Kota Ishidaのフィルタを通して各国で生活する彼女たちのアイデンティティに迫る。

イギリスと日本のルーツを持ち、幼少期から双方の文化を往来してきたMay Kershaw。
ロンドンのギルドホール音楽演劇学校でクラシックピアノを専攻、音楽をストイックに追求しながらも多彩な創造性を発揮し、現在ポストパンク・バンドBlack Country, New Roadでキーボード奏者として活動している。
彼女は自身をとりまく状況に動かされるのではなく、「自分はどうしたいのか」を真摯に自問自答し、選択を続けてきた。その姿勢はたゆまぬ音楽探究のみならず、身に纏う服やヴィーガニズムにおいても反映されている。彼女の自覚的な生き方や創作にまつわる話を伺った。

自分が本当にやりたいことを、自分の中から導き出す

ー正統なクラシックがバックグラウンドにありつつ、若い世代を中心に共感される叙情的で躍動感溢れる音楽を作られています。現在の活動に至るまでMayさんが歩まれてきた道程についてお聞かせください。

5歳の頃にピアノを習い始めて、18歳まで同じ先生のもとで学んでいました。その先生は、音楽教育だけではなく、音楽を通して人間を育てる事に重きをおいた「スズキ・メソード」でピアノを教えていました。音楽の習得方法もユニークで、スコアを読んで曲を理解するんじゃなくて、耳で聴きながら身体的に音楽を習得することが重視されていたんです。音楽を聴き、生徒同士でグループになって歌ったり、一緒に演奏したり。
基本的に音楽やピアノはずっと好きだったけど、音楽への興味が持てなくなり、ピアノから離れたいと思った時期もありました。
高校卒業時点では音大進学は考えてなくて、自分が進みたい道が定まってなかった。そこで1年の猶予期間を設けて、病院でヘルスケアアシスタントとして働きながら自分が本当にやりたいことを模索しました。やっぱり音楽を真剣に学びたいという思いが強くて、翌年ギルドホール音楽演劇学校に入学しました。
ギルドホールにはBlack Country, New Roadのメンバー、LewisやGeorgiaも在籍してました。厳格な先生とハイレベルなクラスメイトに囲まれて、常に人の目を意識してたし、プレッシャーを感じてた。スコアを正確に覚えなきゃいけない、張り詰めた緊張感の中で演奏するソロリサイタルなんか本当に恐怖でした。
でも音楽を学ぶ場所としては素晴らしい環境でしたね。クラシックピアノを専攻しながら、副専攻で電子音楽の作曲やハーモニー、エッセイについて学びました。
バンド活動を始めたのは16歳の時。ポストパンクのバンドで、ケンブリッジやロンドンでのライヴをメインに、サポートバンドとしてヨーロッパ・ツアーも経験しました。2018年に解散したけど、ほぼ同じメンバーで現在のバンドBlack Country, New Roadを結成しました。
またBC,NRと並行してギルドホールの同級生とピアノ・ヴァイオリン・クラリネットのトリオでも活動していて、ストラヴィンスキーやバルトークといった20世紀モダン音楽を演奏しています。
バンドの曲作りにあたっては、自分が担当する楽器パートを超えてメンバー全員でアイディアを出し合います。個々の独自の音楽性は演奏を通して顕れてくるし、他のメンバーのアイディアや演奏にインスピレーションを受けることも多々ある。個性の強いメンバーが集まっているので話し合いがまとまらないこともあるけど、強い意見のぶつけ合いは重要だし、ひとりで煮詰まるよりも断然楽しいですね。個々の演奏、音楽的なアイディアがひとつに溶け合う瞬間があるんです。

ープロフェッショナルな視座による音楽の追究と、バンドメンバーとの自由意志的なセッション、いずれも妥協なく高みを目指す姿勢が基盤となっていますね。創作のインスピレーションはどんなところから得ていますか?

毎朝ケンブリッジの自宅で、クラシック音楽のスコアを初見で演奏する「サイトリーディング」というトレーニングをしているんですが、そこからインスピレーションを得ることが多いかもしれません。モーツアルトのコードがまるでポップソングみたいに聴こえたりする。BC,NRの曲作りは少なからずクラシック音楽の影響を受けている気がします。あとは近所を散歩したり畑仕事をしている時など、何も音楽を聴いてない時の方が思考が冴えるように感じます。
作詞については読書がインスピレーションになることもあります。最近感銘を受けたのはアラスター・グレイの作品「ラナーク」です。ダークな作品で、その憂鬱で無慈悲な世界観に、なぜか惹かれるところがあります。病院で働いていた時に死が身近にある状況を経験していて、その影響が強いのかもしれない。
バンドの曲で私が作詞・作曲・ボーカルを担当したThe Boyは、作品の世界観としては悲観的なんだけど、逆にライトな印象にしたくて動物のキャラクターを登場させています。最近は特に、ネガティブな感情や状況をポジティブに変換してアウトプットすることの大切さを感じています。
ほかにも美術館、演劇、クラシックコンサート、映画鑑賞もインスピレーションになっていて、最近だとThe Courtauld Galleyのピーター・ドイグ展がとても良かったです。

服や食事を通して、生き方を選択する

ー日常生活の中で大切にしていることを教えてください。

音楽の仕事はツアーで頻繁に飛行機に乗るので、サスティナブルからは程遠い活動です。日々の生活で少しでもサスティナブルにしたいと思い、洋服のバックグラウンドを確認して選択したり、ヴィーガンの食事をとったりしています。
普段着は古着屋やeBayで買うことが多いです。バンドのメンバーも皆古着が好きなので、ツアーに行くと先々で古着屋を巡ります。古着は一点物なので探すのが楽しいし、リユースや環境への配慮という観点でも古着の活用は重要だと思います。
東京やロンドン、NYなどでのスペシャルなショーでは、女子メンバーと一緒にドレスアップをして楽しみます。
TĔLOPLANの服は私の普段着ている服とよく合いますし、全体感をアップグレードしてくれます。シャツの襟のデザインはチャイナドレスを彷彿とさせるもので、デザイナーのLinさんのアイデンティティが反映されていて素敵だと思います。
ヴィーガンを意識したのは10歳の頃。色々なドキュメンタリーを見たことがきっかけです。大学で自炊を始めてからはほぼヴィーガンになりました。今はケンブリッジの自宅の畑で野菜を育てています。ツアー中は畑仕事ができないので、自宅にいる間にできるだけ手入れします。
日本食も好きなんですが、食べられないものも多くて。大好きな納豆巻きを食べるためには、ヴィーガンを少し忘れないといけないかも。

アイデンティティは与えられるものではなく、自分自身を主軸にして培っていくもの

ーご自身のイギリスと日本のルーツについて、意識的に考えていることはありますか?

日本で生まれたし、幼少期に愛媛で過ごした記憶もたくさんあるので、日本のルーツは大切に思っています。8歳から毎週日本語を学ぶためロンドン補習授業校に通っていました。漢字は難しかったけど、生徒はみんな日本人や日系人だったので居心地が良かったです。
いつか東京にも住んでみたいです。
でも実際日本に来ると、日本人として認識されていないと感じます。イギリスでは学生時代に私と同じようなルーツの友達がいたし、社会的に日本より馴染みやすいと思います。 日本滞在中は周囲の人たちの日本語を聞き取ってみたり、自分でも日本語で会話してみたり、日本語の練習も楽しんでます。先日ツアーでアジアを回ったとき、どの街でも英語を話す人がサポートしてくれたので、現地の言葉を話す機会がなかったのが心残りでした。台北は日本に近い雰囲気で、人も優しくて良い場所なだけに、もし言葉が喋れたら現地の言葉でコミュニケーションをとってみたかったですね。

ー音楽においても、日々の暮らしや社会との関わりにおいても、常にご自身の可能性を拡げていらっしゃる印象です。Mayさんの今後の目標を教えてください。

いろんなことに挑戦してみたいです。
今は作曲が楽しくなってきています。どんな曲になるか、自分でも楽しみにしています。
あとはサイトリーディングを上達させたいですね。

May Kershaw /
Guildhall School of Music and Dramaピアノ科を卒業。
高校時代に、地元ケンブリッジでバンド活動を始める。Black Country, New Road(BC,NR)では、キーボード、シンセサイザー、アコーディオン、ボーカルを担当。BC,NR 初ライブアルバム「Live at Bush Hall」を今年2月にリリース。現在ヨーロッパ・アメリカツアー中。

Kota Ishida /
1997年生まれ
小説家を志した大学在学中、撮った一枚の写真から文章を紡ぎ出す試みから、より写真へと傾倒。以後独学で写真を撮り始める。これまでにアメリカにて映画NINE DAYS(2021)などの撮影にスチールフォトグラファーとして参加。
2023年よりMA-RE incに所属し、より本格的にファッションフォトグラファーとして活動を開始。

Nami Kunisawa / Akio Kunisawa /
フリーランスで編集・執筆を行う。これまでに「Whitelies Magazine」(ベルリン)、「Replica Man Magazine」(ロンドン)、「Port Magazine」(ロンドン)、TOKION(東京)等で、アート、ファッション、音楽、映画、写真、建築等に関する記事に携わる。

Photography:Kota Ishida
Text : Nami Kunisawa
Interview : Akio Kunisawa