TELOPLAN FEATURES LOOPTOWN TORA INTERVIEW

TELOPLAN FEATURES LOOPTOWN TORA INTERVIEW

茨城県、常総市。筑波山の麓に広がる関東平野の抜けるような青空のもと、一面に広がる青々とした穂波のなかに、その場所はある。

Autumn Winter 2022 Seasonのコレクション撮影で訪れたのは、古着や古家具を取り扱うLooptown(ループタウン)。古物の販売以外にもカフェやさまざまなイベントの開催などをおこなっており、世代や地域を越えて人々が集う場所だ。

入り口で客人を出迎えるのは、樹齢400年にもなるというケヤキの大樹。敷地内に一歩足を踏み入れると、どこか凛とした空気が漂う。柘榴の木から赤紫蘇まで、あちらこちらに樹木や草花が植えられているが、目を凝らしてみると無駄な雑草は生えておらず、隅々まで丁寧に手入れされているのがわかる。大正時代に創設された機織り工場の跡地だという敷地には、店舗として使われている元工場の建物と、昭和時代に改築された母家、そして数棟の倉が佇んでいる。

店主であるTORAさんがこの場所に出会ったのは27歳の時。

「元々こちらの出身でしたが、20歳で東京に行って、グラフィックデザインの仕事をしていました。ですがある日、急に父親から廃墟を買って直すことにしたから手伝ってほしいという連絡がきて。そんなことを言い出す人ではなかったのに、よっぽどなにか感じるものがあったんでしょうね。

初めて訪れたとき、入口のケヤキを見て、これが庭に生えてるのはすごいなあと思って。あと大黒柱や屋根組など、すごく立派な木材を使っていて、建物の作りがしっかりしてると思いましたね。あと、この敷地の昔の写真が沢山出てきたんですが、そこに本当にたくさんの人たちが映っていて。ああ、昔からここにはたくさんの人が集まっていて、いろんな人に愛されてきた場所なんだと感じました」

今でこそ、美しく手入れが行き届いているこの場所も、信じられないことにかつては荒れ果てて廃墟と化していたという。

「最初は、本当にゴミだらけでした。以前はおばあさんが一人で住まわれていたのですが、かつて敷地全体が150cmも浸水した水害があり、その被害があまりに甚大で手放すことにされた。そういった経緯で売りに出され、いろいろな人が見にこられたそうなんですが、やっぱり誰にも直すことができない。だけど、父親はどうしても自分が直さなくてはいけないと感じたみたいです。

当時、敷地全体には30cm以上も土砂が積もっていて、さらにその上に身長より高い雑草が生い茂っていました。なのでまずはそれらを刈って、掃き出して、とにかくゴミを捨てて。それから修復を始めました。最初の1年間は、父親が毎日朝5時半から夜の6時まで、独学で古民家を直す方法を学びながら修復して。今の状態になるまで2年以上かかりましたね」

自身の哲学に従って、しなやかに生きる働く女性たちが心地よく身に纏うことのできる服を提案しているTĔLOPLANだが、奇遇なことに、かつてこの場所もそんな女性たちが織子として働く場所であったという。

「店舗として利用しているこの建物は、大正時代に建てられ機織り工場として使われていました。まだ女性が働くことが珍しかった当時、東京からも働く意欲のある女性が引っ越してきたそうです。隣にある建物は、その人たちが泊まったり、お茶を飲む場所として使っていたとのことです。この建物も漆喰などを全て塗り直して綺麗にしました」

そうして生まれ変わった建物の中には、古今東西さまざまな時代や場所からやってきた品々が蒐集されている。TORAさんは、昔からなにかを拾ってくることが好きな子供だったという。

「小さい頃から拾い物が好きで、流木や鉄屑を拾ってきては、なにかを作ったりしていました。今ここにあるものも、いろんなところから拾ってきました。海で拾ってきたものもあれば、誰かから譲り受けたものもあります。あと、旅によく出るのですがその道中拾ってきたものも多くあります。ここにある薬棚はこの間四国を一周したときに、愛媛のあるお店でいろいろ物色していたら、おじいちゃんに『お兄ちゃん、これ何十年もうちにあるんだけど、いらねえか』と聞かれて引き受けました」

「初めは古着を売って、友達が遊びに来てくれればいいな、くらいの気持ちで始めたんです。でも、オープニングパーティーをやった時に東京の友達がたくさん遊びに来てくれた。音楽を流して、父親が飲み物を出したりして。そしたらみんな口を揃えてこの場所は最高だね、と言ってくれて。その反応や、都会の友人達と田舎の人たちが交わっていく光景を見て、人が交わる場所になっていく予感がしました。

最初はそんな感じで始まって、それからも夏祭りをやったり、画家の方の展示をやったり。フリーマーケットをやった時には、東京はもちろん、関東近郊のさまざまな場所から400、500人ものお客さんが来てくれました。イベントでは東京のミュージシャンの友達が演奏してくれることもあるし、茨城で出会ったご飯屋さんが協力してくれることもある。最近はイベントをやるとそういったように、茨城と東京の人たちがどんどん混ざり合うようになってきていてますね」

お店を始める前から『MADARAH』という名義でビートメイカーやスケーターとして活動していたTORAさんの周りには、東京からも多くの友人たちが集う。今後、Looptownをどういった場所にしていきたいと考えているのか聞いてみると、「うちには子供からお年寄りまで、幅広い年齢層の人がきてくれる。骨董オタクの人もいれば、まったく興味がない人もいる。ラッパーと骨董好きのおじいちゃんなんて、普段だったら絶対会わないじゃないですか。そういったジャンルの垣根を越えて理解しあえて、単純にこの場所が好きっていう気持ちで繋がりあえる、そういった場所になっていくのかなと思います」との答えが返ってきた。

母家の雨樋は銅で作られており、当時の姿を残している。緑青の柔らかな緑色が気に入っているそうだ。

「あと、日本の文化や歴史を守らなきゃいけないという気持ちがあって。海外に行って日本の良さを語れる若者がどのくらいいるんだろうと考えますね。日本家屋も、彼らにとってみれば、おばあちゃんの家みたいかもしれないけれど、海外の人にはアートに見える。それに日本家屋って全部自然に還る素材で出来ているんですよ。家が崩れれば、地球の一部になるだけ。でもそういった観点にも、なかなか気づかずにどんどん壊してしまう。そういった風潮はすこし残念だと思います。

でもアメリカンやヴィンテージ古着が好きな若い子がたくさん遊びにきてくれる。それでなかには急に古物に興味を持ち出す子なんかもいて。この場所でみんななにかにパッと気づく瞬間みたいなのがあって。なのでそういったことに気づくきっかけにもなればいいなと思います」

受け継がれてきた伝統を、革新しながら次の世代に伝えていく。
そんなTORAさんの姿勢と、消えゆく日本各地の工場や職人の技術を織り込みながらデザインしているTĔLOPLANには通ずるものがあるのではないだろうか。
時代や場所を越えて、永く愛されるものと出会えるLooptownにぜひ一度足を運んでみてほしい。