TĔLOPLAN VISITS: The Museum of Modern Art, Saitama

TĔLOPLAN VISITS:
The Museum of Modern Art, Saitama

日本を代表する名建築家である黒川紀章。彼が初めて設計した美術館である埼玉県立近代美術館を訪れた。

緑に溢れた北浦和公園の並木道。歩を進めていくと、建築を覆い包むように聳える格子状の構造体が目を奪う。

一歩その内部に足を踏み入れると、今度はファサード(建物正面)の滑らかに波打つ曲面ガラスが目に入る。

人工的で静的な格子と、有機的で動的なガラスの対比が美しいこの玄関アプローチは、外部空間とも内部空間ともつかない中間領域として機能しており、建築と公園の自然の共生を図っている。

埼玉県立近代美術館は、戦後日本で勃興したメタボリズム運動の旗手であった黒川紀章が初めて手がけた美術館である。

1982年に竣工したこの建築は、全体がグリッドの立方体により構成されている。公園内の景観に馴染むよう、高さは周囲の樹木と同じ15m以内に抑えられており、確実な存在感を有しながらも公園内に静謐に佇んでいる。

開館後、建物の随所に彫刻家田中米吉の手がけた『ドッキング(表面)No.86-1985』という作品が設置された。

外壁のタイルと同素材で作られ、建物の内外部を貫く様に設置されたこの立方体は、建築自体を芸術作品へと昇華している。

日本語で「新陳代謝」を意味するメタボリズム。

その言葉を冠し、黒川をはじめ、菊竹清訓、槇文彦といった建築家たちによって1960年に発足したメタボリズム運動は、新陳代謝の概念を建築や都市計画へと適用することを目指した。

黒川は著書『行動建築論 メタボリズムの美学』のなかで、その定義を「人間社会の物質系(環境構造・都市構造)が熱力学的平衡状態へ向かって変化してゆく道筋において現れる秩序ー動的安定(ダイナミック・バランス)の状態」と定め、静的な建築観に対し、建築は本来動くものであるとし、絶え間なく成長し、変化し続ける建築を提唱した。

開館後に、建物そのものの形状を変えてしまう彫刻作品を大胆に取り入れることを許したのも、こういった思想の反映であったのかもしれない。

埼玉県立近代美術館を設計した1980年代になると、黒川は「共生」の概念を前面に打ち出すようになる。

黒川は、都市と建築を人間と機械のような二律背反と考えず、「流れ」の概念を媒介として、二律背反そのものや矛盾を認めるよう説いた。

「建築とは、(情報)の流動のかたちである。」

人間と自然、理性と感性、東洋と西洋。こういった相反する要素が対立しながらも競い合うことで、新たな創造を可能とするとしたこの概念は、周囲の自然と調和しながら佇むこの建築にも取り入れられている。

また公園内には野外彫刻が多く設置されており、美術館内だけではなく、その周辺環境でも芸術作品を鑑賞することができる。

高度経済成長期とともに激動の日本を駆け抜けた建築家、黒川紀章。

彼の願いは、彼の建築がなくなってもその思想がのこることだったという。

対極にあるはずの静と動が、実際には生命や物体のなかで、混ざり合い流動している。

そんなテーマのもと作られた、TĔLOPLAN Autumn Winter 2022 Collectionのなかにも、その思想は着実に流れている。

Photography: Syuya Aoki (W)
Styling: TĚLOPLAN Team
Hair and Make-up: Masaki Sugaya (GÁRA inc.)
Model: Hyou Kagou (STANFORD)
Edit: Lisa Tani