THE PAPER: THE APPARITIONS

あなたは街角に出現する “ トマソン ” を知っているだろうか。それは、古ビルの外壁で、歩道の片隅で、人知れずそっと息を潜めながらこちらを見つめている。時には二度と開かれることのない扉として、また時には行き場を無くした階段として。ありし日の姿を僅かにとどめながら、見向きもされず、ただその場に存在している。そんな存在をある日発見してしまった赤瀬川原平氏は、それらを “ 超芸術トマソン ” と名付けた。トマソンとは、かつてアメリカの大リーガーとして活躍したのち高給でジャイアンツに迎え入れられたものの成績振るわず万年ベンチに張りついていたトマソン選手にちなんでおり、その名を漢字で書くと「超芸術」となるのだという。その存在を一度知ってしまえば素通りすることはできない、けれどもいざ探そうとするとなかなか見当たらない。そうして誰の気にもとめられることなく、いつしか忘れ去られていく。そんな都市の幽霊のようなトマソンは、かつて確かに存在した建物やそこに暮らしていた人々の記憶が忘却の彼方へと向かう途中の姿なのかもしれない。今日もあらゆる都市の街角で、かつての面影と記憶を抱きながら、トマソンは亡霊のように佇んでいる。